グラフィックレコーディングの仕事をしていると、
「絵の練習って、どうやってるんですか?」とよく聞かれます。
私は「ジェスチャードローイング」という手法で練習をしています。
この記事は、その練習の話と、
ずっと画面ごしに教わってきた砂糖ふくろう先生に、名古屋ではじめてお会いできた日の話です。
ひらたく言えば、推しの話です。
でも、ビジュアル表現をしている方へなんらかのヒントになれば・・・と思い記事を書いてみることにしました。
金閣寺で、みんなが同じ写真を撮っていた
6月、京都に行ったときのこと。金閣寺にも足をのばしました。
ものすごい数の観光客の方々がいらっしゃって。
その中に、スマホを置くための台がありました。
その台のポジションから撮れば、みんな、同じ金閣寺の構図で撮れます。
スマホの多少の性能の違いはあれど、
ほとんど同じ構図の一枚が撮れてしまう。

きれいな写真です。
でも、そこに写っているのは、「みんなが“見ている”金閣寺」でした。
ジェスチャードローイングのメガネで、金閣寺を見てみる
私はふだん、ジェスチャードローイング(略して「ジェスドロ」)という練習をしています。
短い時間で、人の動きを線で受け取る練習です。
くわしくはあとで書きますが、これを続けていると、物の見え方が変わります。
ジェスドロのメガネをかけて、もう一度、金閣寺を見てみる。
すると、まったく違う景色が立ち上がってきます。

今まで見てきた、自分の国のお城や建物。
その文化の背景。
込められた思いや願い。
ここまで、皆はどんな思いで到達してきたんだろう。
金閣寺にたどり着くまでには、けっこうな坂道があります。
その坂を上ってきた道のりのこと。
仲良さそうに話している、いろいろな国の方々。
パートナーかな? ご夫婦かな?
修学旅行で来ているのかな?
そういう、いろんな背景ごしに見ると、
自分の中で、問いが動きはじめます。
私は、何を感じたんだろう?
どこをプッシュしたいんだろう。
どこを強調して描きたいんだろう。
どこが、いちばん目に飛び込んでくるんだろう。
「金」という色なのか。
池もふくめた、あの空間なのか。
それとも、そこにいる人々なのか。
何を私は感じて、どんな関係性と捉えて、どういうふうに見えたのか。
目の前にあるのは、動かない建物とその周りの人です。
それでも、ジェスドロのメガネをかけると問いが勝手に動きだす。
これが、ジェスチャードローイングをやっていると起きてきた自分の中での大きな変化です。
動きを速く描けるようになる練習だと思われがちですが、私にとっては、この問いが動きだす収穫が大きい。
そもそも、なぜジェスチャードローイングなのか
もともとは、グラフィックレコーディングを始めてから、絵が上手になりたいなぁと思って始めました。
でも、続けているうちに、目的が変わってきました。
私は、アニメのような絵を描きたいわけじゃない。
描きたいのは、その場で対話を繰り広げている方たちの、感情とか、動きとか。眉毛の動き、肩の動き。
その一つ一つの動きから、私たちはきっと、感情を読み取っている。

ワークショップでも、対話の場でも、絶えず人がどんな気持ちになったのかを受け取る行為を描きながら行なっています。
その感情の起伏を線で受け取れるようになりたくて、練習を続けています。
やっていることは、30秒のスケッチ
1ポーズにかける時間は、30秒〜1分ほど。
その時間では、細部は描けません。
髪の毛も、指の本数も、服のシワも、まるで間に合わない。
だから、いちばん大事なものだけを、線に乗せることになります。
名詞ではなく、動詞を描く
いちばんのポイントは、動詞を描くこと。
「髪」「腕」「足」は、名詞です。
形を写し取ろうとすると、この名詞を追いかけることになります。
そうではなくて、
「のぞきこんでいる」
「聞いている」
「伸びている」。
描くのは、名詞ではなく動詞のほうです。

顔ではなく、肩や腰を見る
絵で感情を表そうとすると、
たいていは顔で表現することが多いと思います。
笑った顔、困った顔、驚いた顔。
でも、体のほうが先に出ていることがあります。
怖いとき、肩が上がる。腰が引ける。
悲しいとき、肩が下がる。
表情以外にも、私たちはジェスチャーから、いろんな感情を読み取っている。
だから、顔を描き込まなくても伝わるときもあります。


30秒でも、発見はたくさんあります。
その先にある「VST」という考え方
ここまでが、ジェスチャードローイングという「練習の方法」の話です。
その先に、VST(ビジュアルストーリーテリング)という考え方があります。
ひとことで言えば、一枚の絵で、物語を伝えきるということ。
そのために、目の前の相手を、こんなふうに見ていきます。
誰なのか。
何をしているのか。
何を考え、感じているのか。
そして、それを見て、私はどう感じたのか。
この4つです。
正確に写し取ることが目的じゃない。
最後の「私はどう感じたのか」まで含めて、線にのせていく。
ジェスチャードローイングは、その入口にあたります。
短い時間で動きを受け取る練習を重ねた先に、
物語を伝えるところへ手が届く、という順番です。
ワークショップも、対話の場も、
この4つの問いを感じながら繰り広げられているんだと思っています。
砂糖ふくろう先生の「あなたは、どうしたい?」
さきほど本の名前を出した、砂糖ふくろう先生。
VSTという考え方も、この先生に教わりました。
砂糖ふくろう先生は、私に絵を描くときのマインドを、たくさん見つけてくださった素敵な先生です。
その砂糖ふくろう先生から教えていただいた魔法の問い。
うまくかけてもOK、うまくかけなくてもOK
本当は、どうしたい?
この問いが、私のジェスチャードローイングの練習の真ん中にあります。
そして私は、この問いに何度も助けられてきました。
うまく描けなくて手が止まったときも、聞かれるのはいつもこれです。
グラフィックレコーディングの描き方と、地続きのこと
これは、私の本業であるグラフィックレコーディング(グラレコ)と、
たくさん、似ている点があると思っています。
いろんなお話を聞いたとき、
私にはその場が、どういうふうに見えたのか。
それを、つなげていく。
文脈として、紡いでいく。

描いていると、こんな感覚があります。
丸が、ポツポツとある。
その丸と丸のあいだに、空間の隙間がある。
その隙間に何が入るのか、描いていると徐々に見えてくる。
おそらく、この感覚が描いているときに感じているコンテキスト、文脈といわれるものです。
その隙間を、埋めていく。
点と点をつないで、その場に流れていたものを立ち上げていく。
グラレコの描き方の根っこには、いつもこの感覚があります。
会議の記録でも、同じだと思っています。
発言をそのまま文字で写し取るだけだと、こぼれ落ちるものがある。
誰が、どんな思いで、何に向かって話しているのか。
そこを受け取れると、1枚の意味が変わってきます。
だから私は、ジェスチャードローイングが大好きです。
続けてみて、変わったこと
ひとつは、印象の捉え方です。
その人が何を感じて、何を考えているのか。
それを、表情だけではなく、全身のジェスチャーで捉えるようになりました。
もうひとつ。こちらのほうが、たぶん大きいです。
以前は「体が描けないから難しいなぁ」で止まっていました。
いまは、勇気を持って、前に出せるようになりました。
上手く描けるようになったから、ではありません。
描けなくても出していい、私はこう感じだ、こう見えたと線に乗せて出力できるようになったからです。
大人になると、減っていく問い
大人になると、なかなか聞かれなくなります。
「あなたは、どう感じたの?」
「どういうふうに、思っているの?」
話す機会も、伝える機会も、少なくなっていく。
だからこそ、いつのまにか感性は抑圧されていて、
感じたものを外に出すのは、すごく難しいことだと感じています。
ジェスチャードローイングは、その出し方を、そっと取り戻してくれます。
うまく描く必要はなくて、「私は、こう感じた」を、線にしていいんだよ、と。
名古屋まで、会いに行った

ずっと画面ごしに教わってきた砂糖先生に、
名古屋で会えるオフ会がありました。
オフラインVST酒場#10「飲食する人・話をする人を描こう!」。
2026年7月10日、会場は名古屋駅の近く。
この日のテーマが、「動詞を描く癖をつけよう」でした。
翌日に仕事を控えていたので、弾丸名古屋。
朝いちばんの便で宮崎を出て、日帰りで名古屋へ向かいました。

砂糖先生が、ドアからガチャっと入ってきたとき。
本当に、砂糖先生がいるんだ。
毎日毎日、画面ごしに声を聞いて、見ていた方が、目の前に現れた。
あの感動は、言葉になりません。

先生が描きはじめると、みんな静かに集まってくる
動いている砂糖先生を見られたことは、もちろん感動でした。
でも、行ってみて楽しかったのは、それだけじゃありませんでした。
サロンに入っている方々と、話せたこと。
どういう練習をしているのか。
どんなことを感じながら描いているのか。
普段は、どんな環境で描いているのか。
画面ごしだと、なかなか聞けないことばかりです。
その一つ一つが、私のすごく大切な経験として落ちてきたように思います。

砂糖ふくろう先生は、実際にタブレットで手を動かしながら、
新しいコンテンツの説明をしてくださいました。
これを生で見られたのは、本当にありがたかった。
そして、ペンが動きはじめた瞬間に、誰かが号令をかけるわけでもないのに、
みんな、砂糖先生の元へ寄っていく。
あの皆さんの熱量が、すごく好きな光景でした。
先生がいつも言っている「感じること」を、
その場で、実際にやってみられたことも大きかった。
見るだけじゃなくて、体験してみる。
そういう経験が、オフ会ではできたのかなと思っています。
行ってよかった、名古屋。

砂糖ふくろう先生に教えてもらったこと
たくさんあるけれど、いちばん大きいのは、これです。
オールOK。
できてもいいし、できなくてもいい。
でも本当は、自分はどうしたい?
それから、ゆるく長く、10パーセントの力で続けていくこと。
がんばる、気合、根性、じゃなくて。
いろんなところを使ってアプローチする方法。
いろいろ書いたけれど、とにかく。
砂糖ふくろう先生の絵が、色っぽいんです。
線に、人間性がにじみ出てるんだよなぁ。
もう、それが好き。好きなんです。
私は、砂糖先生のフィルターを通して見た世界の成り立ち方を見るのが、
好きなのかもしれません。


現場で使った一枚
練習の話ばかりしてきましたが、実際のお仕事でもジェスドロ使っています。
宮崎大学「みやざき未来研究所(ミヤダイミライ塾)」第7回、
テーマは「ミヤダイがゾンビでワンダフル!!」。
ゲストはコンテンポラリーダンスカンパニーんまつーポスのみなさんで、
講演とダンスワークショップが組み合わさった回でした。
身体表現が中心の時間です。
言葉より先に、体が動いている。
そこで、文字をほとんど使わずに、
動きの印象だけを線で追いかけてみました。

上半分が、ほとんど線だけになっているのが分かると思います。
ジェスチャードローイングをやっていなければ、この描き方は選べませんでした。
そのときの記録はみやざき未来研究所のレポートに書いています。

はじめてみたい方へ
やってみたいけれど、と思った方のつまづきポイントを私なりに。
「人物が描けないから無理です」
むしろ逆で、うまく描けないところから始める練習です。
最初は印象をとらえた一本の線で、まったく問題ありません。
形が合っているかより、「どんな印象だったか」が線を通じて自分に伝わるかを見ます。
これは本当に地道。
「30秒じゃ、短すぎませんか」
むしろ短いほうが、迷う余白がなくなって、かえって描きやすいことがあります。
細部を描くための時間ではないので、これで足ります。
というより、詳細に目がいかない癖をつけるためにも30秒がむしろいい感じ。
「これ、意味ないんじゃないか」と思ったら
私も思ったことがあります。
続けても続けても、線は相変わらず頼りないし、
昨日より下手になった気さえする。
そういうときは、たぶん誰かと比べて「上手くなったか」で測っているんだと思います。
そうではなくて、こう聞いてみてはいかがでしょうか?
この絵を見て、私が捉えた印象が、線にのっているか。
伝わっていれば、OK。違っていたら何が違うか考えてみる。
これの繰り返しで確実にラインコントロールの精度が上がっていくように思います。
「ひとりだと続かない」
これが一番大きいと思います。
私も、続いているのは場があるからです。
砂糖先生には、VST酒場という月額のコミュニティがあります。
私がやめずにいられるのは、ここがあるからです。

やっていることは、とてもシンプル!
本当に、線を1本描くところから。
その線の印象が、私が捉えた印象に近いのかどうか。
それを、何千本、何万本と描いていきます。
想像として描くのではなくて、私が感じたものをプッシュして描いていく。
入口として、私が実際に使っているものを置いておきます。
- 砂糖ふくろう先生の著書『10パーセントの力で描く はじめてのジェスチャードローイング』(ボーンデジタル)で、考え方をつかむ
- じぇすどろパーティ(GESDRAW PARTY)の動画に合わせて、コツコツ描く
- 砂糖ふくろう先生が主催されているVST酒場(Visual Story Telling Bar)のような、続けられる場に入る
※この記事にはアフィリエイトリンクを含みます。紹介しているのは、私が実際に使っているものだけです。
『10パーセントの力で描く はじめてのジェスチャードローイング』砂糖ふくろう(著)
グラレコの際の人体錬成やラインコントロール、印象を捉える力を得たい!とおもい始めたジェスチャードローイング。砂糖先生のマインドも大好きで、描くのがなんだか辛いなと思った時もそっと支えてくれる、そんな1冊です。
一番最初に読む 自由自在に顔が描けるようになる本 神技作画シリーズ (KITORA) 砂糖ふくろう(著)
砂糖先生の最新刊!これで顔を立体的にとらえられるようになった神本。しかもなんと、購入して後悔してほしくないという理由で全ページ無料公開しているという愛溢れる一冊。。付属資料の練習ドリルも嬉しい!
GESture DRAWing Party(youtube)
ジェスドロを練習する際にお世話になっているチャンネル。素敵な演者さんたちも沢山いらっしゃって本当に飽きずに続けられる素敵なチャンネル。ジェスドロを等速はもちろん、二倍速にして練習させていただいてます。(いつもありがとうございます!)
グラレコの練習方法そのものについては、【グラレコ実践法】実際に行ったトレーニング法・本・練習・講座を紹介!にまとめています。もしよろしければ合わせてご覧ください。

おわりに
同じ対象物を見たとしても、
何を感じて、それを線に乗せて、表現をする。
それがグラフィックレコーディングでできたらいいなぁと思って、
私はジェスチャードローイングを始めました。
同じ構図の写真では写らない、あなたが感じたものが、
きっと、そこにあらわれます。
感じたものを外に出すのが難しいな、と思っている方にこそ、
一度やってみてほしいなと思っています。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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