スクライビングワークショップの概要

2025年8月2日・3日、東京・芝浦にあるガラス張りの開放的な空間「SHIBAURA HOUSE」で開催された、スクライビング対面ワークショップに参加しました。主催はNPO法人U Journey。台湾から実践者のJayce Pei Yu Leeさん、Crystal Huanさんをお招きし、2日間にわたって「描くことを通じて場をひらく」体験を共にしました。
私がスクライビングに興味を持ったきっかけは、ケルビー・バード著『場から未来を描き出す――対話を育む「スクライビング」5つの実践』との出会いでした。
昨年、赤村でのアート・オブ・ホスティングの場でこの本を知り、以来読み込みながら実践を重ねてきましたが、実際にスクライビングのワークに参加するのは今回が初めて。
会場に入った瞬間から、模造紙やペン、色の並び、そして全国から集まった参加者の熱量を感じ、「ここから何かが始まる」という期待と緊張が入り混じっていました。
Day1:感覚をひらく
インテンションツリーで自分の意図を描く
午前中は「インテンションツリー(意図の木)」から始まりました。
「何が私をここにつれてきたんだろう」「この2日間で持ち帰りたいものは何か」。その問いを胸に、意図を木に託して描きます。私が描いたのは――押しつぶされそうな重力や冷たい圧力のイメージ。その中で、重力よりも空気感、過去よりも未来、失望よりも期待、AIではなく人にしかできないこと、記録よりも記憶、確実さよりも不確実さにある可能性を見つけたい――そんな願いを込めてこの場に臨みました。描いていると、見えてこなかったこと、自分でも気づかなかった部分に眼を向けるきっかけをいつももらいます。

線や色に感情を乗せるウォーミングアップ

ウォーミングアップでは線や色を自由に使う表現に挑戦。普段のグラフィックレコーディングは「黒で文字、色で整理」というスタイルですが、このワークでは「線そのものに感情を乗せる」「筆を走らせる」アプローチで、最初は「?」と戸惑いながら描いていましたが、次第に「形にしなくてもいい」「ただ出すこと自体が大事」という感覚に変わっていきました。
ジェイスさんの実践から学んだ「余白」と「信頼」
ここで強く印象に残ったのが、ジェイスさんの実践です。色と線を巧みに使い分けることで、グラフィックが二次元から三次元へと立ち上がって見える。その表現によって、判断を一度保留する余裕が生まれ、線や形の間に余白が立ち上がる。そして、その余白が場をひらき、スクライビングが「Social ART」として機能し始める瞬間なのだと気づきました。
ただ、場をひらくには勇気がいります。「もし間違ったらどうしよう」「受け止めてもらえるだろうか」――そんな不安が頭をよぎります。そのときに必要なのは信頼。書いている自分を信じる信頼、場にいる仲間とつながっていることを信じる信頼。その両方が支えになるのではないでしょうか。
仲間と描く喜び
また、ライリーさんが私たちの会話をその場で描いてくれたとき、自分の言葉のひと粒が他者の思考と混じり合い、ひとつの絵として膨らんでいくのを目にしました。その瞬間に湧き上がった「一枚になった喜び」は、今も強く残っています。
聴き方・描き方の選択


Photo: from Scribing in Japan 2025 Host by NPO法人U Journey
午後は「聞き方のレベル」「スクライビングの4つのレベル」を学びました。この時点で頭の中は完全にカオス。さまざまなシチュエーションで描きながら「どのレベルで聴くか」「何を手放すか」という選択の連続。立ち止まるのか、フローに乗り続けるのか――その積み重ねの中で、自分の聴く力・描く力を研ぎ澄ませたいと思いました。
Day2:実践と共創
ケルビーさんとのオンライン対話
朝はオンラインでケルビー・バードさんと対話する時間から始まりました。
「何を感じ取ればいいのか」「本来の自分=オーセンティシティを思い出す」ことの大切さを語ってくださり、心に深く残りました。恐れに飲み込まれそうになったとき、何を思い出すのか、自分のためではなく、場にいる人のためだけでもなく、もっと大きなもののために描く。言葉の一粒、一粒が何度も波のように寄せては返し、心に染み入る時間となりました。
植物を観察して描くワーク

その言葉を胸に取り組んだのが、植物の観察ワーク。当日の朝、会場までに向かう間に自然のものを持ち寄ります。
最初は「茎が伸びている」「葉が葉脈で分かれている」といった事実をスケッチするだけ。次第に「日光を求めている」「生きようとしている」「ハートが重なっている」といった思考が加わり、さらに「静けさ」「たくましさ」といった感覚が色や形に変わっていきました。描くたびに、普段なら言葉にしない感覚が浮かび上がってくるのに驚きました。また同時に、スクライビグのレベル1からレベル4までの片鱗に触れたような感覚がありました。
言葉に頼らず音を描く体験

Photo: from Scribing in Japan 2025 Host by NPO法人U Journey
さらに印象的だったのは、言葉がまったくわからない状況で音や雰囲気だけを頼りに描いたセッション。声の抑揚やリズムを線に変えていくうちに、頭が空っぽになり、ただ感覚が研ぎ澄まされていく――そんな不思議な体験でした。普段「理解しなきゃ」と構えてしまう自分にとって、この解放感は大きな転機となりました。
グループワークで生まれる共創

Photo: from Scribing in Japan 2025 Host by NPO法人U Journey
午後はグループワーク。仲間と対話を聴き、レベルを聞き分け、それを模造紙に描き出し、意味づけを重ねていく。自分一人では到底生まれなかった表現や視点が次々と飛び出し、「スクライビングは一人で完結する技術ではなく、仲間と共にプロセスを歩むことで初めて成立するんだ」と実感させてもらう時間となりました。
振り返り「I see / I think / I sense」
最後の振り返りでは「I see(見えたこと)」「I think(考えたこと)」「I sense(感じたこと)」のフレームで、自分の体験を整理。すべてを消化できたわけではありませんが、そのモヤモヤさえも「これから探求を続ける材料」だと受け止められました。
学びと気づき
描くことは結果ではなくプロセス
聴く・感じる・描くが重なったとき、場がひらかれる
他者と共に描くことで、自分の表現の幅が広がる
整理しきれていない感覚も、大切な学びの種になる
スクライビングのワークショップは、私にとって「描くことの意味を根底から揺さぶる」体験でした。ケルビー・バード著『場から未来を描き出す――対話を育む「スクライビング」5つの実践』を読みながら試みてきた1年間。その理論が、実際の現場でどう生きるのかを体で理解できたことが、最大の収穫でした。
まだ完全に消化できてはいませんが、そのモヤモヤを大切にしながら、これからも仲間とのセッションや実務での実践を通して探求を続けていきます。フリーランスとして活動する中で、この「場をひらく描き方」をどう社会に実装していけるか。仲間とともに歩みながら、その可能性を探っていきたいと思います。
※本記事内の写真は、NPO法人U Journeyのガイドラインに基づき、クレジット表記のうえ掲載しています。